「対称性の自発的破れ」によるセントラルドグマの数理的説明とGADV仮説の矛盾性は?

質問の人

セントラルドグマを「対称性の自発的破れ」から数理的に説明したとの論文が出ましたが、これは最初に触媒活性のあるRNAから双方向に分離してセントラルドグマが作られたと解釈されているように思います。これとGADV仮説は矛盾しないものでしょうか?

論文に目を通してはいないのですが、『数理的に説明した』という場合、前提条件の設定などによっては色々な結論を生み出し得るものです。したがって、その論文の結論とGADV仮説の予測する生命誕生への道筋が全く異なることもあるのです。しかし、RNAそのものが前生物的手段のみを使って原始地球で生まれるのか、生まれたとしてもそのRNAがどのような遺伝暗号を用いてタンパク質のアミノ酸配列情報を書き込むことができたのかを具体的に説明していないと思いますし、説明できないと思います。したがって、『数理的に説明した、説明できた』としても、GADV仮説の主張が打ち消されることもないと考えています。
具体的には、私は次のように考えています。当然のことですが、ある一つのタンパク質のアミノ酸配列をコードした塩基配列をあらかじめデザインすることはできません。したがって、原始地球上での前生物的手段によってRNAが合成できたとしても(私には、複雑な構造を持つRNAを前生物的手段で合成できるとは思えませんが)、ランダムなヌクレオチド配列(塩基配列)を持つRNAしかできません。即ち、ある特定のタンパク質のアミノ酸配列をコードしたRNAを合成することは不可能なのです。しかし、GADV仮説にしたがえば、タンパク質のアミノ酸配列を書き込んだRNAは次のように生まれたと考えることができます。

  1. ランダムな[GADV]-アミノ酸配列をコードした二重鎖(GNC)n RNAから、柔軟な構造を持つ未熟な水溶性で球状のタンパク質を合成する。
  2. そのRNAの塩基配列上に突然変異を繰り返しながら、未熟な[GADV]-タンパク質の上に現れる弱い触媒活性(機能)をより高い活性を持つ[GADV]-タンパク質へと成熟化させる。
  3. このような過程を経て、特定のタンパク質のアミノ酸配列をコードした遺伝情報が生まれるのであり、それ以外の方法はないと考えています。

  これと実質的には同等の仕組みが、今でもGC含量の高い遺伝子のアンチセンス鎖を使って、全く新規なタンパク質を生み出す際にも使用されていると私は考えています。詳しくは、最近(2021年)、Springer Nature から出版された私の英文著書:タイトルは、Towards Revealing the Origin of Life -Presenting the GADV hypothesis の中の第3章:The Origin of Protein または第8章:The Origin of Gene をご覧ください。

(2021年8月4日更新)