タンパク質0次構造仮説


全く新規なタンパク質はどのようにして生み出されるのか?

今の地球に棲んでいる生物は20種のアミノ酸からなるタンパク質を使って生きている。それは普遍遺伝暗号(標準遺伝暗号とも呼ばれる)が20種のアミノ酸をコードしているからである。この20種のアミノ酸を100個ほど並べて作られる小さなタンパク質でもその多様度は約10130にも達する。したがって、100アミノ酸からなる全く新規なタンパク質を生み出す際、100アミノ酸からなる配列全てを調べつくして目的にかなうタンパク質を生みだしているのではないことだけは確かである。
それでは全く新規なタンパク質はどのようにして生み出されてきたのであろうか。現時点でこの問題に答えているものはどこにもない。それに対して、私は、独自の遺伝子の起源(GC-NSF(a) 新規遺伝子生成仮説)や遺伝暗号の起源(GNC-SNS 原始遺伝暗号仮説)を考えている過程で、次のようなタンパク質の起源仮説に到達した。

全く新規なタンパク質が生み出される過程

私は、このことについて二重鎖遺伝子の形成後と形成前の二つに分けて、以下のように考えている。

■二重鎖RNAまたは二重鎖DNA遺伝子形成後の場合

  1. アミノ酸をランダムに並べても水溶性で球状のタンパク質を形成できる特別なアミノ酸組成(これを私はタンパク質の0次構造と呼んでいる)の下で、アミノ酸をランダムに並べ水溶性で球状のタンパク質を作る。球状タンパク質を作ることで、球状タンパク質の表面には、表面に位置するアミノ酸の組み合わせから考えて触媒活性を持つかもしれない点が数百ヶ所表れるからである。
    その際、現存の成熟したタンパク質と比べるといくらか柔らかい構造のタンパク質を作ることが重要である。なぜなら、柔らかい構造であれば、有機分子に対する対応能力が大きくなり、触媒活性を獲得する上でさらに好都合となるからだ。ただ、柔らかい構造のタンパク質では、当然のことながら触媒活性が小さくなる。しかし、触媒活性の小ささは問題とならない。なぜなら、それまでに存在しなかった触媒活性が(ほんの)少しでも生み出されることが重要で、小さな触媒活性を持たない場合よりも生存可能性が大きくなるからである。
  2. (i)のように、現存の成熟したタンパク質と比べていくらか柔らかい構造を持つ水溶性で球状のタンパク質を生みだす場が、現在(普遍遺伝暗号の下)では、GC 含量の高い遺伝子のアンチセンス鎖(GC-NSF(a))であり、SNS 原始遺伝暗号を使用していた時期では、二重鎖 (SNS)n 遺伝子のアンチセンス配列であり、GNC 原初遺伝暗号の下では、二重鎖 (GNC)n 遺伝子のアンチセンス配列なのである。
    なぜなら、それらのアンチセンス鎖から合成されるタンパク質は、水溶性で球状のタンパク質を形成するための6つの条件(疎水性/親水性度、α-へリックス、β-シート、ターン/コイル形成能、および酸性アミノ酸含量、塩基性アミノ酸含量)または4つの条件(疎水性/親水性度、α-へリックス、β-シート、およびターン/コイル形成能)を満足できるからである。
  3. こうして、二重鎖遺伝子形成後では、GC 含量の高い遺伝子や二重鎖 (SNS)n 遺伝子、二重鎖 (GNC)n のアンチセンス配列を利用して、いくらか柔らかい構造を持つ水溶性で球状のタンパク質を合成し、その表面に弱いけれど必要な触媒活性が存在したら、後は、二重鎖遺伝子上に突然変異を集積しながらより構造が固く、触媒活性の大きなタンパク質へと成熟させる、それと並行して、アンチセンス鎖から生まれた未成熟な遺伝子が成熟した遺伝子へと変化するのだ。

■二重鎖遺伝子形成以前

遺伝子が生まれる前のタンパク質は、Gly, Ala, Asp そして Val の4種のアミノ酸からなる [GADV]-タンパク質だった。なぜ、この地球上に生まれた最初のタンパク質がこのような [GADV]-タンパク質だったのか、そして、この [GADV]-タンパク質が有効なタンパク質として機能できたのかについて、私は以下のように考えている。
それは、4種の [GADV]-アミノ酸が4つのタンパク質の構造形成条件を満足しているタンパク質の0次構造の一つだからだ。したがって、4種の [GADV]-アミノ酸をほぼ同じ比率でこの4種のアミノ酸をつなぐことによって、水溶性で球状のタンパク質をと高い確率で生み出すことができる。しかし、このような [GADV]-タンパク質では、触媒活性が低い上に、遺伝子形成以前であるためタンパク質の触媒活性を成熟させることができない。しかし、ここでも触媒活性の低さは問題にならない。なぜなら、遺伝子形成以前の時期は当然のことながら原始地球の生命誕生以前のことである。このような時期なら、極めて低い触媒活性のタンパク質触媒(酵素)が生まれたことの方が重要な意義を持ったに違いないからである。
このように、これまでは全く新規なタンパク質がどのように生み出されるのかについては、よく分かっていなかった。しかし、私が到達した遺伝子や遺伝暗号の起源に関する新しい考えに基づいて考えると、それまでに存在しなかったタンパク質のどれとも類似しない(相同性を持たない)全く新規なタンパク質は、ランダムにつないでも水溶性で球状の構造を高い確率でとり得る特別なアミノ酸組成が鍵を握っているとの考えに到達した。この考えを私はタンパク質の0次構造仮説と名づけている。

 

ランダム重合で水溶性球状タンパク質を合成
Protein0thStruc

最終的に成熟タンパク質となる。

(参照)

  1. Origins of Gene, Genetic Code, Protein and Life: comprehensive view of life systems from a GNC-SNS primitive genetic code hypothesis (a modified English version of the paper appeared in Viva Origino, Vol. 29, 66-85 (2001)) Kenji Ikehara, J. Biosci., Vol. 27, 165-186 (2002).
  2. Catalytic Activities of [GADV]-Peptides: Formation and establishment of [GADV]-protein world for the emergence of life. Takae Oba, Jun Fukushima, Masako Maruyama, Ryoko Iwamoto and Kenji Ikehara, Olig. Life Evol. Biosph., Vol. 35, No. 5, 447-460 (2005).