GC-NSF(a) 新規遺伝子生成仮説

GC-NSF(a) 新規遺伝子生成仮説


遺伝子の起源解明に向かって

地球上のどこかで、今でも新たな遺伝子が生み出されているのだろうか。このような質問は、突飛で奇異に感じる読者が多いのかも知れない。しかし、地上、地中、水中、空中、高温、低温など様々な環境に細菌や原生生物などの微生物から動植物に至るまで多様な生物が棲息している。現在の地球上のこのような状況を見ると生命がその都度出会う新たな環境に適応するため、長い期間に亘って新たな遺伝子を生み出してきたし、生み出しているのは間違いのないことだ。

水溶性・球状のタンパク質の構造形成条件

また、遺伝子はタンパク質のアミノ酸配列情報を持ってこそ、初めて遺伝子となれるのだ。そのため、まずはタンパク質の基本的な性質を知ることから始めることとした。そこで、ゲノムの塩基組成が幅広い細菌等の微生物に着目し、GC含量の高いゲノムを使用する微生物から、GC含量の低いゲノムを使用する微生物7種を選び出し、全タンパク質内の20種のアミノ酸組成が遺伝子のGC含量によってどのように変化するのかを調べた。
その結果、20種のアミノ酸の内、10種のアミノ酸は遺伝子のGC含量変化に伴って、かなり大きく変動することが分かった。しかし、タンパク質内のアミノ酸組成と個々のアミノ酸が持つそれぞれの因子とから計算できる水溶性で球状のタンパク質の(1)疎水性・親水性度、(2)α-へリックス形成能、(3)β-シート形成能、(4)ターン・コイル形成能、および、(5)酸性アミノ酸含量と(6)塩基性アミノ酸含量の6つの性質はほぼ一定のはずだ。そこで、水溶性で球状のタンパク質が持つ6つの性質を調べたところ、確かに遺伝子のGC含量が変化するにつれて10種のアミノ酸含量が大きく変化してもほぼ一定であることが分かった。このことは、この6つの性質をタンパク質が水溶性で球状の構造取り得るのかどうかの指標として用いることができることを意味している。

新規遺伝子の生成条件

そこで、私はまず以下に示した3つの条件をもとに、「もし仮に今でも全く新たな遺伝子が形成されているとすれば何処なのか」を本気になって考えてみることとした。

  1. 新たに形成される仮想タンパク質が水溶液中で球状構造を採るための6つの条件(疎水性/親水性度、α-へリックス、β-シート、β-ターン構造形成能、酸性アミノ酸含量および塩基性アミノ酸含量)を満足すること。
  2. 一定範囲以上の塩基配列上にストップコドンの出ないノンストップフレーム(NSF)が存在すること。
  3. 新たに形成されるタンパク質の構造は新たに出会う基質(有機分子)とある程度の柔軟性を持って対応できるよう現存のタンパク質よりはいくらか柔らかな構造をとり得ること。

遺伝子の起源(新規遺伝子生成)仮説

その結果、GC含量の高い遺伝子のアンチセンス鎖上の配列(これを私は、GC-NSF(a)と呼んでいる)がコードする仮想的なタンパク質なら、上記の6つのタンパク質の構造形成条件を満足できること、GC含量の高い遺伝子のアンチセンス鎖上の配列には、停止の暗号が出にくいこと、GC-NSF(a)がコードする仮想的なタンパク質のグリシン含量は、平均的なタンパク質内のグリシン含量に比べて過剰となっていること(このことは、GC-NSF(a)がコードする仮想的なタンパク質は、既存のタンパク質よりも柔らかい構造となっていること)が分かった。
以上の結果より、GC-NSF(a)から全く新しい水溶性で球状のタンパク質をコードする全く新しい遺伝子が生まれるというGC-NSF(a)新規遺伝子生成仮説を提唱することができた。

GC-NSF(a) 新規遺伝子生成仮説
(全く新規な遺伝子は GC 含量の高い遺伝子のアンチセンス鎖上に高い確率で表れるノンストップフレームから生まれる)の生成フロー
GC-NSF(a) 新規遺伝子生成仮説

GC-NSF(a) 新規遺伝子生成仮説

(参照)

  1. A Possible Origin of Newly-Born Bacterial Genes: Significance of GC-rich nonstop frame on antisense strand. Kenji Ikehara, Fumiko Amada, Shigeko Yoshida, Yuji Mikata and Akira Tanaka, Nucl. Acids Res., Vol. 24, 4249-4255 (1996).
  2. Unusually Biased Nucleotide Sequences on Sense Strands of Flavobacterium sp. Genes Produce Nonstop Frames on the Corresponding Antisense Strands. Kenji Ikehara, and Eriko Okazawa, Nucleic Acids Res., Vol. 21, No. 9, 2193-2199 (1993).