序説


生命の起源を解明するために必要なこと

地球上の生命はタンパク質のアミノ酸情報を持つ遺伝子と遺伝子の働きで作られるタンパク質の働きの下で生きている。生命の起源を解明するためには、この遺伝子とタンパク質がどのようにして形成されたのかを解決することが重要だ。しかし、良く知られているように遺伝子が無ければタンパク質を合成できない。その一方で、タンパク質(酵素触媒)が無ければ遺伝子を機能させることができない。
このように、遺伝子(DNA)とタンパク質(酵素触媒)の間の「ニワトリと卵」の関係の存在が生命の起源を解決する上での大きな障害となっていた。その問題を解決するため、RNA触媒(リボザイム)の発見を契機にRNAならDNAの持つ遺伝的機能とタンパク質の持つ触媒機能を同時に持ち得ると考えられ、RNAの自己複製によって形成されたRNAワールドから生命が生まれたといるRNAワールド仮説が提案されたのである。確かに、このRNAワールド仮説は面白い考えだった。そんなこともあって多くの人の支持を得た。その結果、このRNAワールド仮説が、現時点では生命の起源を説明するための主な考えとなっている。
しかし、このRNAワールド仮説には下の RNAワールド仮説の問題点の中で書いているように、いくつかの大きな問題点を抱えている。その上、生命の起源を解明するには、遺伝子とタンパク質の間の「ニワトリと卵」の関係の成立過程を説明するだけでは不十分で、私が言うように、遺伝的システム(セントラル・ドグマ)を構成する遺伝子や遺伝暗号・タンパク質が、即ち、生命の基本システムがどのようにして形成されたのかを説明することが必要である。RNAワールド仮説には、自己複製したRNA(私には、RNAが文字通りの意味では自己複製できないと考えているが)がどのようにしてタンパク質のアミノ酸配列情報を獲得できたのか(遺伝子の起源)、RNAワールドから遺伝暗号がどのようにして形成されたのか(遺伝暗号の起源)、そして、全く新規なタンパク質がどのようにして形成されたのか(タンパク質の起源)を説明できないという、生命の起源を考える上では最も重要な問題を解決できないという致命的な欠陥があると私は考えている。

RNAワールド仮説の問題点

私はRNAワールド仮説には、ヌクレオチドが前生物的に(タンパク質触媒形成以前に)形成できたのか? そもそも不斉炭素を多く持つRNAが前生物的に形成できたのか? RNAが(+)鎖が(+)鎖を合成することで初めて実現できる自己複製を行えるのか? また、自己複製を可能とするためには、三次構造を持たないRNA鋳型と、三次構造を持つことで実現できる触媒を同時に実現する必要がある。そのようなことが一本鎖のRNAに可能なのか?など、その解決がほとんど不可能と思えるいくつもの大きな欠点があると考えている。
その上に上で記載したように、RNAワールド仮説には生命の基本システム、遺伝子や遺伝暗号が、そしてタンパク質がどのようにして生み出されたのかを説明することが困難である(私には不可能に思える)という、生命の起源を考える上では最も重要な問題を解決できないという極めて大きな欠陥がある(少なくとも、私はそう考えている)。なぜなら、一つ一つのヌクレオチドの結合によって行われる自己複製によって形成されたRNAが三つのヌクレオチドの並び(トリプレット)を基礎とするタンパク質の情報(遺伝情報)を持つことが確率的に見て不可能だからだ。

仮説の特長

私は [GADV]-タンパク質ワールド仮説の項で説明するように、これまでの生命の起源に関する考えとは異なる独自の生命の起源に関する [GADV]-タンパク質ワールド仮説(略して、GADV仮説)を提唱している。この私の主張するGADV仮説は、生命システム全体の起源(遺伝子や遺伝暗号およびタンパク質の起源)を一つの考えの下で説明できる、言い換えれば3つの要素の起源を全体として統一的に解釈できるという点で特色がある。この点でも私の考えはこれまでのどの考えよりもはるかに説得力のあるものとなっていると自負している。
また、私は GADV仮説は[GADV]-タンパク質ワールドが形成されて以降、続いて、 RNAと[GADV]-タンパク質からなるRNA-([GADV]-)タンパク質ワールドが形成できたのであり、単独のRNAワールドが形成されなかったこと、およびRNAワールドと [GADV]-タンパク質ワールドが並列されたものでもないと考えている。この点でもこれまでのどの考えとも異なる独自の考えとなっている。

このような私の考えに対して疑問を持たれたり、反対意見を持たれる方は『お問い合わせ』を通じてご意見なり感想なりを私に送っていただき、色々な方々との議論を踏まえて私の考えをより優れたものにできればと考えている。