GADVのアミノ酸の自然発生性は?

spontaneous

質問の人
[GADV]-アミノ酸は、比較的簡単な構造とされています。但し、自然発生的に本当に出現し得るものなのでしょうか?
自然発生的でないとGADV仮説がうまく説明できないように思います。

Gly, Ala, Asp そして、Val のいわゆる [GADV]-アミノ酸は比較的構造が簡単で、自然発生的に、言い換えれば原始地球環境を模擬した前生物学的(非酵素的)合成実験で容易に合成できることが多くの研究者の実験によって確かめられています。また、炭素隕石に含まれるアミノ酸(宇宙で自然発生的に合成されたアミノ酸)を分析した結果によっても [GADV]-アミノ酸が多くの隕石中に含まれていることが分っています(Van der Gulik et al., (1))。

ただ一方で、面白いことに天然の 20 種のアミノ酸は、前生物学的(非酵素的)容易に合成できるアミノ酸を順番に使用しているのではありません。その代表的なものが、側鎖にエチル基を持つ2-アミノ酪酸(2-AB)です。この 2-AB を天然のアミノ酸として使用していない理由については次のように説明することができます(池原の考え)。

  1.  β-炭素に分枝構造を持たない疎水性アミノ酸はα-へリックス形成アミノ酸となります(α-へリックス形成アミノ酸と β-シート形成アミノ酸の特徴を比べると良く分ります)。
  2. この 2-AB を G, A, 2-AB, D のように合成されやすいものから順に使用したとしますと、Ala と 2-AB が共に α-へリックス形成アミノ酸となり、α-へリックス形成アミノ酸が重複する一方で、4 種のアミノ酸の中に β-シート形成アミノ酸が含まれないことになります。

そのため、4 種のアミノ酸として、[GAD]-アミノ酸と 2-AB を使用せず、Val の蓄積を待って[GADV]-アミノ酸を使用したのです。 即ち、G, A, 2-AB, D の 4 種アミノ酸を使用した生物が誕生したとしても、[GADV]-アミノ酸を使用した最初の生命体の方が [GAD, 2-AB] の 4 種のアミノ酸を使用した生物よりも、生存する上での能力が高く([GADV]-タンパク質の方が [GAD,2-AB]-タンパク質よりもタンパク質機能が高く)、[GADV]-タンパク質を使用した生命体を祖先とする生物が現在の地球生物として繁栄しているのだと考えて説明できるのです。

(1)  Van der Gulik, Massar, S., Gilis, D., Buhrman, H. and Rooman, M. (2009) The First Peptides: the evolutionary transition between prebiotic amino acids and early proteins. J. Theor. Biol. 261: 531-539.